
外国人社員とのコミュニケーションでは、作業内容・期限・理由を具体的な言葉で伝えます。「はい」という返事だけで終えず、本人の説明で理解を確かめます。職場で使える言い換えと、指示を出す側の確認方法を紹介します。
日本・東京商工会議所の「外国人材活躍解説BOOK」(2020年2月)第6章「コミュニケーション編」をもとに整理しました。以下の会話や表は、業種を問わず使うために作成した例です。実在の社員の発言や支援事例ではありません。
同書は、相互理解の不足、伝わりにくい表現、不適切な言葉づかいの3つを原因に挙げています。指示が伝わらなかったときは、本人の経験と、実際に使った言葉の両方を確かめます。
例えば「この作業はできますか」だけでは、経験と意欲を区別できません。「前の職場で使った道具は何ですか」「どの手順まで1人で行いましたか」と聞きます。国籍で決めつけず、本人が経験した作業と今回の仕事との違いを確かめるための質問です。
表現の問題には、あいまいな言葉と、遠回しに意図を伝える婉曲表現があります。「手が空いたら助かる」という頼み方では、急ぎの指示か、任意の手伝いかが分かりません。優先してほしい仕事なら「今の作業を止めて、先にこちらをお願いします」と、止める作業まで言います。
言葉づかいに「教えてやっている」という態度が出ると、相手は質問しにくくなります。社員に聞き返されたら、担当者は「どの言葉が分かりにくかったですか」と尋ねます。注意するときは「この手順が違います。見本はこちらです」と、作業の話だけをします。
人によって意味が違う言葉は、時刻・場所・完了状態に置き換えます。相手の気付きに期待する言葉は動作を明示し、意味が複数ある返答は許可か断りかを言い切ります。
あいまいさの種類 | 伝わりにくい職場例 | 言い換え例 |
|---|---|---|
人によって意味が違います。 | 「少し待ってから再開して」 | 「10時15分に再開します。それまでは休憩室で待ってください」 |
相手の気付きに期待しています。 | 「机の上、書類でいっぱいだね」 | 「机の上の書類を、右の青い箱に入れてください」 |
複数の意味があります。 | 「印刷は大丈夫です」 | 不要なら「印刷は必要ありません」、許可なら「印刷してよいです」と伝えます。 |
同書は、重要事項の反復、言い換え、理由と目的、常識の言語化、イエス・ノーの明示を勧めています。話す量は、日本人と話すときの5割増しくらいでもよいと提案しています。全員に一律の量を課す基準ではなく、省略していた説明を補う目安として使います。
次の表は、同書の5原則を日々の指示に使う例です。長い文を一度に話さず、短く区切った説明に理由と確認を足します。
原則 | 担当者の伝え方 | 確認する点 |
|---|---|---|
重要事項は繰り返し伝えます。 | 同書では最低3回を提案しています。例として、依頼時・説明の最後・作業直前に期限を伝えます。 | 3回で理解済みとせず、本人に期限を答えてもらいます。 |
伝わらなければ言い換えます。 | 「照合する」が伝わらなければ「2枚の紙の数字が同じか見ます」と説明します。 | 比べる数字を本人に指してもらいます。 |
理由と目的を添えます。 | 「件数を数えます。入力漏れを見つけるためです」と話します。 | 数が合わないときの連絡相手も示します。 |
常識と思うことも言葉にします。 | 「書類を渡したら完了を知らせます」と、作業後の連絡まで伝えます。 | 連絡方法を本人が説明できるか見ます。 |
イエス・ノーを明確にします。 | 「その方法で進めてよいです」「今は変更しません」と答えます。 | 許可する範囲や、止める作業が伝わったか確かめます。 |
伝わりやすい言葉に整えた日本語を「やさしい日本語」といいます。出入国在留管理庁・文化庁のガイドラインは、短い文で1つの内容を伝える一文一義を示しています。職場のメモでも、作業と理由を別の文に分ける方法が使えます。
否定を2回使う二重否定や、敬語を重ねた回りくどい表現も避けます。「やらなくてもいいわけではありません」は「やってください」、「ご確認いただけますでしょうか」は「確認をお願いします」と書けます。
漢字にはふりがなを付け、社内の略語は正式な名前と意味に直します。作成後は本人に読んでもらい、分かりにくい語を修正します。
作業の途中経過を共有してほしいなら、それも手順として伝えます。自分の職場では当たり前でも、初めて働く人には言わなければ伝わりません。例えば「16時の期限に遅れそうだと分かった時点で、担当者へ連絡します」と説明し、「別の人に作業を頼む時間が必要だからです」と理由も添えます。
「日本では常識」で終えず、本人が以前の職場でどうしていたかも聞きます。会社ごとに連絡方法は違うため、自社では誰に、どの手段で伝えるかを示します。
連絡は担当者側にも求められます。質問への返答が間に合わない場合は、担当者が回答する時刻を知らせます。
同書は避けたい言葉を3群に分けて挙げています。次の表は、各群に当たる言い方の例です。注意するときは、人格や国籍ではなく、直す作業と手順を伝えます。
避ける言葉 | 代わりの言い方 | 担当者が行うこと |
|---|---|---|
「見れば分かるでしょう」 | 「分からないところを一緒に見ます。どこまで進みましたか」 | 本人が止まった箇所から教え直します。 |
「この前も教えたよね」 | 「説明を変えます。見本と比べてみてください」 | 同じ説明で伝わらなかった点を見直します。 |
「そっちの国のやり方は通用しないよ」 | 「この職場では、使った道具を棚に戻します」 | 誰にでも共通する作業基準を示します。 |
担当者は、依頼前に内容を整理し、説明後に本人の理解を確かめます。次は指示のたびに使う確認手順の例です。
運送業の点呼や無線など、業務固有の言葉と動作は外国人ドライバーの安全教育と日本語で扱っています。指導役や相談先の決め方は外国人材の受け入れ体制づくりに整理しています。
部署や班では、行き違いがあった指示を集めて言い換え表に追加します。本人の説明と作業結果を見て、伝え方を更新します。
日々の指示は、本人の理解度に合わせて言い換えます。相談では、日本語だけで十分に話せるかも確かめます。
回数だけでは判断できません。3回は同書が勧める説明の目安です。本人に手順を説明してもらい、食い違いが残れば見本や別の言葉で補います。
対応できない場合があります。日本語では十分に理解できない内容は、翻訳資料や通訳を組み合わせます。在留資格「特定技能1号」は、一定の専門性・技能を持つ外国人を受け入れる資格で、生活・就労を支える法定支援があります。相談・苦情には、本人が十分に理解できる言語で対応する必要があります。
「どの資料を、いつまでに出しますか」と具体的に聞きます。説明が合っていても作業が違う場合は、見本を見ながら一緒に作業します。本人が止まった手順だけを、もう一度教えます。