
育成就労の転籍は、本人の希望だけで直ちに認められるものではありません。物流倉庫の本人意向の転籍には、直近の受け入れ企業で1年を超えて働き、技能・日本語の試験要件などを満たす必要があります。初期費用の補填額は、基になる告示額が未公表のため、まだ確定していません。転籍の条件と費用負担、現在の雇用先・受け入れる会社の準備を整理します。
育成就労制度は2027年4月1日施行です。2024年6月成立・公布の令和6年法律第60号による改正を受けた制度で、根拠は「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」です。以下は2026年10月14日の確認内容です。制度全体は育成就労の概要にまとめています。
転籍とは、育成就労を行う雇用先を変えることです。本人意向の転籍には就労期間や試験の条件がありますが、暴力・ハラスメントなど、やむを得ない事情による転籍には同じ期間条件を課しません。どちらの転籍でも、移れるのは同じ業務区分(制度で定める仕事のまとまり)の中だけです。
比較項目 | 本人意向による転籍 | やむを得ない事情による転籍 |
|---|---|---|
理由 | 本人が別の企業での就労を希望します。 | 人権侵害、倒産、重大な契約違反などで就労継続が困難な場合です。 |
就労期間 | 直近の企業で、分野別の制限期間を超える必要があります。 | 1〜2年の転籍制限期間を待つ必要はありません。 |
技能・日本語 | 分野別に定める試験への合格が必要です。 | 期間や試験の要件は問わず、就労の継続が困難な事情があるかを確認します。 |
移れる仕事 | 同一の業務区分内に限ります。 | 同一の業務区分内に限ります。 |
企業の初動 | 申出内容、期間、試験結果を整理します。 | 本人の安全を確保し、事情と証拠を整理して支援機関につなぎます。 |
倉庫分野の業務区分は1つです。そのため、転籍によって倉庫作業からトラックの運転業務へ移れるわけではありません。自動車運送業には育成就労の分野設定がなく、物流倉庫はすでに対象に含まれています。違いは自動車運送業と育成就労の扱いで確認できます。
人事は申出を受けた時点で、希望日だけでなく理由を本人に聞き取ります。賃金不払いや契約と異なる労働条件の訴えがあれば、雇用契約書、給与明細、勤怠記録を照合します。希望転籍と決めつけず、1年経過を待たずに事情を聞き取ります。
本人意向の転籍制限期間は、分野ごとに1〜2年の範囲で定められています。このうち物流倉庫は1年で、直近の企業でその期間を超えることが必要です。別の会社で働いた期間を足して判定しません。
日本語要件は、物流倉庫では制度全体の下限より高く設定されています。制度全体では、技能は一般に技能検定基礎級等、日本語はA1相当以上を下限として、分野ごとに試験の水準を定めます。A1・A2は「日本語教育の参照枠」の水準で、A1相当の試験には日本語能力試験N5などがあります。ただし、全分野でN5を満たせば転籍できるわけではありません。
物流倉庫では、物流倉庫分野育成就労評価試験(初級)と、日本語A2.1相当以上の試験への合格が必要です。人事は合格証明書や判定結果通知書で、試験名と水準を照合します。1年目の育成目標である日本語A1と、本人意向の転籍要件を混同しないよう管理します。
2026年10月14日に確認した国交省ページでは、初級試験の具体的な日程・実施要領は未公表です。試験は制度開始(2027年4月1日)以降に始まる予定です。企業は募集時に受験日を確約せず、公表後に教育日程へ反映します。
転籍先には、技能・日本語の育成実績や法令遵守状況等に照らした優良要件があります。通常の受け入れ人数枠に加え、本人意向の転籍者は、受け入れ後の育成就労外国人総数の3分の1以下でなければなりません。今回受け入れる転籍者も、転籍者数と総数の両方に数えます。ただし、やむを得ない事情による転籍者など施行規則第19条第4項の除外対象者は、人数の計算から除きます。
例えば、受け入れ後に育成就労外国人が除外対象者を除いて6人となる企業なら、本人意向の転籍者は計2人までです。日本人や特定技能の外国人を含む全従業員数では計算しません。転籍先の住所が指定区域外(大都市圏等)なら、制限がもう一つあります。指定区域内(地方)からの転籍者を、育成就労外国人の総数に対して6分の1以下に抑えることです。ただし総数6人未満の企業は、3分の1の条件を満たせば、地方から1人まで受け入れられます。
本人意向の転籍では、民間の職業紹介事業者による紹介を使えません。求職者情報を提供する「特定募集情報等提供事業」も同じです。会社は、監理支援機関(企業への監理・指導や外国人の支援・保護を行う許可機関)やハローワーク等と手続きを確認します。倉庫事業の要件は物流倉庫の受け入れ企業の条件で別に整理しています。
初期費用の一部は、本人意向の転籍先が転籍元へ支払う仕組みです。送出手数料等の実費を、そのまま全額請求できるという意味ではありません。告示額が出るまで、双方とも費用と手続きの記録を整えておきます。
1回目の本人意向の転籍では、国が告示で定める額に、転籍元での就労期間に応じた割合を掛けます。算出額の1,000円未満は切り捨てます。算定の基になる告示額は未公表で、補填額の具体的な金額はまだ確定できません。入管庁Q&Aは、告示を今後制定すると説明しています。
転籍元での就労期間 | 告示額に掛ける割合 |
|---|---|
1年以上1年6か月未満 | 6分の5です。 |
1年6か月以上2年未満 | 3分の2です。 |
2年以上2年6か月未満 | 2分の1です。 |
2年6か月以上 | 4分の1です。 |
表は施行規則の算定区分です。転籍できる時点は、前述の「制限期間を超える」という要件で判断します。2回目の本人意向の転籍には別の算定方法があるため、この表を繰り返し使いません。
会社の備えとして、入社時に仕事内容、賃金、相談先、転籍条件を本人へ説明します。その後は月1回など面談日を社内で決め、業務への不満と日本語学習の進み具合を記録する運用が考えられます。月1回は定着に向けた社内運用の例であり、法定の面談頻度ではありません。
転籍先は、本人の申出を踏まえて新しい育成就労計画を作成し、外国人育成就労機構に計画の認定を申請します。人事は申請前に、同一業務区分、期間・試験要件、優良要件、人数枠を照合します。
初期費用の補填額を支払う旨も申請時に誓約します。運用要領では、認定後6か月以内に支払いを証明する書類を機構へ提出する扱いです。担当者は認定日を基準に期限を管理し、振込等の記録を保存します。
倉庫部門の採用計画は、1年経過後の転籍も見込んで組みます。人事は就労開始日、試験結果、面談記録、費用明細を本人ごとにまとめます。
期間を満たしても、試験や転籍先の条件は別に確認します。制度の確認で迷いやすい3点を取り上げます。
期間だけでは足りません。1年を超える就労に加え、初級試験、日本語A2.1相当以上、転籍先の優良要件や人数枠などが必要です。
全額を回収できる制度ではありません。1回目は告示額と就労期間に応じた割合で計算します。未公表の告示額が出るまで、具体的な補填額は確定できません。
手続きは異なります。ここで説明した期間・試験の条件は育成就労の本人意向の転籍要件です。特定技能で必要な変更申請や届出は、特定技能の退職・転職手続きで確認できます。